労使協定方式とは? 均等・均衡方式との違いやメリット、対応を解説
労使協定方式とは、派遣社員と正社員の不合理な待遇格差を是正し、「同一労働・同一賃金」を実現するために導入された制度のことです。
派遣会社は派遣社員の待遇を決める際、労使協定方式か派遣先均等・均衡方式のどちらかを選んで、給与や福利厚生などを決定する必要があります。本記事では、派遣社員の待遇を決める2つの方式のうち、労使協定方式についてわかりやすく解説します。
労使協定方式の概要や派遣先均等・均衡方式との違い、メリット・デメリット、賃金の算出方法、派遣元と派遣先が対応することなどを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
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目次[非表示]
- 1.労使協定方式とは
- 2.派遣先均等・均衡方式との違い
- 2.1.派遣社員の待遇を決める際の比較対象
- 2.2.派遣先が派遣元へ提供する情報
- 3.労使協定方式のメリット
- 3.1.派遣元企業のメリット
- 3.2.派遣先企業のメリット
- 4.労使協定方式のデメリット
- 4.1.派遣元企業のデメリット
- 4.2.派遣先企業のデメリット
- 5.労使協定方式における一般賃金の算出方法
- 5.1.基本給・賞与などの算出方法
- 5.2.通勤手当の算出方法
- 5.3.退職金の算出方法
- 6.労使協定方式で派遣元企業が対応すること
- 6.1.派遣労働者の賃金を確認して決める
- 6.2.派遣先企業から比較対象労働者の待遇情報を得る
- 6.3.労使協定案を作成する
- 6.4.労使協定を締結して派遣労働者へ周知する
- 7.労使協定方式で派遣先企業が対応すること
- 8.まとめ
労使協定方式とは
労使協定方式とは、派遣社員と正社員の不合理な格差を是正し、「同一労働・同一賃金」を実現するために導入された待遇決定方法のひとつです。
派遣元(=派遣会社)と「労働者の過半数代表者」または「労働者の過半数が所属する労働組合」が労使協定を締結し、派遣社員の待遇を決定します。
具体的な賃金額などは、厚生労働省が毎年発表している「同種の業務に同一の地域で従事する一般労働者の平均的な賃金額」を参考にして算出します。ただし、業務に必要な教育訓練を受ける権利や、休憩室などの福利厚生施設を使う権利は、派遣先の正社員と同等でなくてはなりません。
厚生労働省では、労使協定方式について以下のように説明しています。
「労使協定方式」とは、派遣元において、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数代表者と一定の要件を満たす労使協定を締結し、当該協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式です。
労使協定に定める「賃金」については、職業安定局長通知で示される、派遣労働者と同種の業務に同一の地域で従事する一般労働者の平均賃金と同等以上になるように決定するとともに、昇給規程等の賃金改善の仕組みを設ける必要があります。
派遣先均等・均衡方式との違い
派遣社員の待遇を決める方式には、労使協定方式のほかに、派遣先均等・均衡方式があります。派遣元は派遣社員の待遇を決める際、どちらかの方式を選び、給与や福利厚生などを決定します。
派遣先均等・均衡方式は、「派遣社員が行なう仕事と同様の業務に従事している社員」を派遣先から選出し、その待遇情報を参考にして、派遣社員の給与などを決める方式です。待遇の参考となる派遣先の社員は、比較対象労働者と呼ばれます。
対して労使協定方式は、厚生労働省が発表している一般労働者の平均賃金に関する資料を参考に、派遣社員の待遇を決定します。そのため、労使協定方式と派遣先均等・均衡方式では、「派遣社員の待遇を決める際の比較対象」や「派遣先が派遣元へ提供する情報」が異なります。
派遣社員の待遇を決める際の比較対象
労使協定方式と派遣先均等・均衡方式のもっとも大きな違いは、「派遣社員の待遇を決める際の比較対象」です。
前述の通り労使協定方式では、厚生労働省が毎年発表する一般労働者の平均賃金を参考にして、派遣社員の待遇を決めます。
対して派遣先均等・均衡方式では、比較対象労働者を派遣先から選出し、その待遇情報を参考にして派遣社員の給与などを決定します。
派遣社員の待遇を決める際に比較対象とする情報 |
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派遣均等・均衡方式 |
派遣先に直接雇用されており、なおかつ同種の業務に従事する労働者(=比較対象労働者)の待遇 |
労使協定方式 |
同種の業務に、同一の地域で従事する一般労働者の平均的な賃金額 |
派遣先が派遣元へ提供する情報
労使協定方式の場合、派遣先は「業務遂行のため必要な教育訓練」および「休憩室・更衣室・食堂などの福利厚生施設」に関する情報を派遣元へ提供する必要があります。
対して派遣先均等・均衡方式の場合、派遣先は「職務の内容」「待遇の内容」「配置の変更範囲」「比較対象労働者に選出した理由」などの情報を、派遣元へ詳細に提供しなくてはなりません。派遣先均等・均衡方式のほうが、派遣先から派遣元へ提供する情報量が多いのです。
労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の主な違いを以下の表にまとめましたので、方式を決める際の参考にしてください。
派遣先均等・均衡方式 |
労使協定方式 |
|
待遇を決める際の比較対象 |
派遣先に直接雇用されており、なおかつ同種の業務に従事する労働者(=比較対象労働者)の待遇 |
同種の業務に、同一の地域で従事する一般労働者の平均的な賃金額 |
派遣先が派遣元へ提供する情報 |
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なお、派遣先均等・均衡方式については、以下の記事でより詳しく解説しています。「どちらの方式で派遣社員の待遇を決めるか、判断に迷っている」という方は、こちらの記事もぜひご覧ください。
▼派遣先均等・均衡方式とは? 労使協定方式との違いやメリット、対応を解説
労使協定方式のメリット
ここからは、労使協定方式のメリットとデメリットを解説します。まずは、派遣元と派遣先それぞれの立場から見たメリットを確認しましょう。
派遣元企業のメリット
労使協定方式では、厚生労働省が公的に発表している一般労働者の平均賃金をもとに、派遣労働者の待遇を決定します。そのため、労使協定方式における派遣元のメリットには、以下の3つが挙げられます。
- 派遣先の賃金水準にとらわれることなく、派遣労働者の待遇を決定できる
- 派遣先が変更になっても、派遣労働者の賃金を一定以上の水準に保てる
- 賃金が安定していて働きやすいため、派遣労働者が定着しやすくなる
派遣先企業のメリット
派遣先のメリットとしては、派遣元に提供する情報量が少ないため、書類作成などの業務負担が軽減されることが挙げられます。派遣元と情報のやり取りをスムーズに済ませられれば、必要な人員を早く確保できるでしょう。
また、前述の通り労使協定方式には「派遣労働者の賃金を一定以上の水準に保てる」という特徴があります。賃金の水準が一定以上であれば、派遣労働者はモチベーションを維持しやすいでしょう。派遣労働者が、派遣先で高いパフォーマンスを発揮すれば、業務生産性アップにつながります。
労使協定方式のデメリット
続いて、派遣元と派遣先それぞれの立場から見た、労使協定方式のデメリットを解説します。
派遣元企業のデメリット
労使協定方式では、派遣元と「労働者の過半数代表者」または「労働者の過半数が所属する労働組合」が労使協定を締結します。労使協定を結ぶにあたり、適切な協定内容を定めたり、派遣労働者と合意を形成したりする必要があるため、時間と手間がかかるでしょう。
また、労使協定の内容は定期的に見直し、必要があれば改定します。協定の内容に関して、派遣労働者の意見を聴取し、反映させる必要があります。企業と労働者で意見が対立するケースもあるので、企業側には高い労務管理能力が求められます。
派遣先企業のデメリット
労使協定方式では、派遣元と派遣労働者が労使協定を締結し、待遇を決定します。派遣労働者の待遇を決めるときは、厚生労働省の公的な資料を参考にしますが、詳細な賃金は派遣元によって異なります。
つまり派遣先からすると、「同職種で人材派遣を依頼する場合あっても、派遣元が変われば賃金差が生じる状況になる」ということです。派遣労働者の賃金は派遣料金にかかわるので、派遣先としては、複数の派遣元を比較検討したうえで契約を結ぶ必要があります。
労使協定方式における一般賃金の算出方法
ここからは、労使協定方式における一般賃金の算出方法を解説します。労使協定方式の賃金は、厚生労働省により「派遣労働者と同種の業務に、同一の地域で従事する一般労働者の平均賃金(=一般賃金)と同等以上にする」と定められています。
そのため、派遣労働者の賃金を決めるには、まず一般賃金を算出する必要があります。一般賃金には、以下3つの要素が含まれています。
- 基本給や賞与
- 通勤手当
- 退職金
それぞれの算出方法を詳しく見ていきましょう。
基本給・賞与などの算出方法
基本給や賞与は、「基準値×能力・経験調整指数×地域指数」の計算式で求められます。計算式に使われる値の概要を以下にまとめました。
概要 |
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基準値 |
厚生労働省が発表する「賃金構造基本統計調査」または「職業安定業務統計」から算出されたもの。 |
能力・経験調整指数 |
派遣労働者の能力・経験を加味した給与の指標として算出されたもの。 |
地域指数 |
都道府県別の物価の違いを表している指数。 |
通勤手当の算出方法
通勤手当には、実費支給と定額支給があります。労使協定方式では、労使間の協議により、どちらの方法で支給するか決定します。
ただし、どちらの方法で支給するにしても、厚生労働省により「一般労働者の通勤手当(=一般通勤手当)の最低金額と同等以上を支給しなくてはならない」と定められています。
一般通勤手当の最低金額は、毎年変動します。たとえば令和6年は「労働1時間あたり72円」、令和7年は「労働1時間あたり73円」です。
実費支給および定額支給の概要を以下にまとめましたので、参考にしてください。
概要 |
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実費支給 |
金額の上限がない場合 |
派遣労働者の自宅から派遣先までにかかる交通費を、出勤日数に応じて実費で支給する。 |
金額の上限がある場合 |
一般通勤手当の最低金額と同等以上を支給する。 |
|
定額支給 |
毎月一定の金額を通勤手当として派遣労働者に支給する。 |
退職金の算出方法
退職金を支給する方法には、以下の3つがあります。
- 前払い退職金制度による支給
- 派遣元企業の独自の退職金制度による支給
- 中小企業退職金共済制度などへの加入による支給
それぞれの方法について、以下にまとめましたので参考にしてください。
概要 |
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前払い退職金制度 |
退職金として、基本給・賞与等の6%以上に相当する金額を毎月の給与に上乗せして支給する。 ※6%以上という数値は局長通達により定められているため、これを下回ることはできない。 |
派遣元企業の独自の退職金制度 |
派遣元企業が独自で定めた退職金制度を、派遣労働者にも適用して支給する。 |
中小企業退職金共済制度などへの加入 |
中小企業退職金共済制度や確定拠出年金などに、基本給・賞与等の6%以上に相当する金額を、掛け金として毎月積み立てる。 |
労使協定方式で派遣元企業が対応すること
ここからは、労使協定方式で派遣元が対応すべきことを4つ解説します。
派遣労働者の賃金を確認して決める
労使協定方式で派遣労働者の待遇を決める場合、派遣元には、まず以下のような対応が求められます。
- 厚生労働省などの公的な資料を確認する
- 確認した資料を参考に派遣労働者の賃金を決める
- 派遣労働者の賃金に「賃金テーブル」を設定する
賃金テーブルは「賃金構造基本統計調査」や「職業安定業務統計」などの公的資料を参考にしながら、派遣元独自の基準も設けて明確に定めましょう。
派遣元は派遣労働者から待遇について説明を求められた際に、賃金の決定にあたり参考にした事項などを明示する義務があります。いつでも明確に、わかりやすく説明できるよう情報を整理しておきましょう。
派遣先企業から比較対象労働者の待遇情報を得る
比較対象労働者とは、派遣先に直接雇用されている労働者で、なおかつ従事している「業務の内容」や「業務の責任範囲」などが、派遣労働者と同程度であると見込まれる人のことです。
労使協定方式では、派遣労働者の賃金を決める際、厚生労働省が公表する資料を参考にします。しかし、派遣先の「教育訓練を受ける権利」や「福利厚生施設を利用する権利」などの賃金以外の待遇は、派遣先に直接雇用されている比較対象労働者と同等にしなくてはなりません。
そのため派遣元は、派遣先から比較対象労働者の教育訓練および福利厚生施設に関する待遇情報を、具体的に取得する必要があります。取得した情報を労使協定に反映させ、比較対象労働者と派遣労働者の待遇の均衡を図りましょう。
労使協定案を作成する
労使協定案とは、労働者(=派遣労働者)と使用者(=派遣元企業)が取り交わす労使協定の草案のことです。派遣先から待遇情報を取得したら、労使協定案を作成しましょう。
厚生労働省の資料では、労使協定で定める事項を次のように説明しています。
【労使協定に定める事項】
① 協定の対象となる派遣労働者の範囲
② 賃金の決定方法(同種業務の一般労働者の平均的な賃金額以上・職務の内容等が向上した場合に改善)
③ 職務の内容などを公正に評価して賃金を決定すること
④ 賃金以外の待遇の決定方法(派遣元の通常労働者との間で不合理な相違がない)
⑤ 段階的・体系的な教育訓練を実施すること
⑥ 労使協定の有効期間 など
労使協定案には、上記のように法令で定められた項目を漏れなく記載する必要があります。厚生労働省が労使協定案の雛形を用意しているので、作成の際は活用するとよいでしょう。
労使協定を締結して派遣労働者へ周知する
労使協定方式では、派遣元と「労働者の過半数代表者」または「労働者の過半数が所属する労働組合」が、協議のうえで労使協定を締結します。労使協定を締結したら、対象となる派遣労働者に内容を周知しましょう。
「賃金の決定方法」や「労使協定の有効期間」など重要な情報については、書面を交付して伝えることが大切です。派遣労働者が自身の待遇への理解を深められるため、安心して就労できるようになります。
労使協定方式で派遣先企業が対応すること
続いて、労使協定方式で派遣先が対応すべきことを3つ解説します。
比較対象労働者の待遇情報を派遣元へ提供する
先述したように、派遣先は比較対象労働者の待遇情報を派遣元に提供する必要があります。具体的には、派遣先の業務を遂行するにあたり必要な「教育訓練」の情報や、休憩室・更衣室・食堂などの「福利厚生施設」についての情報を派遣元へ提供します。
派遣労働者に教育訓練や福利厚生施設を提供する
派遣先は派遣労働者に対して、必要な教育訓練を実施したり、福利厚生施設の利用機会を与えたりする義務があります。比較対象労働者と派遣労働者の不合理な格差をなくすため、派遣元へ提供した情報通りの待遇を用意しましょう。
なお、厚生労働省の資料では、派遣先の教育訓練および福利厚生施設について、以下のように定めています。
【教育訓練】
派遣元の求めに応じて、派遣労働者に対しても、業務遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施するなどの義務があります。
【福利厚生施設】
食堂・休憩室・更衣室→利用の機会を与える義務があります。
物品販売所・保育所・図書館・講堂・娯楽室・体育館などの施設→利用に関する便宜供与を講ずるよう配慮する義務があります。
派遣料金に見直しが必要な場合は対応する
労使協定方式では、厚生労働省が毎年発表する一般労働者の平均賃金を参考にして、派遣労働者の待遇を決定します。一般労働者の平均賃金は時期によって変動するため、派遣労働者の待遇も、その変動に合わせて定期的に改定されます。
つまり、派遣労働者の待遇が改定されることによって、派遣料金も変わるということです。派遣先は労働者派遣法により、派遣料金に配慮するよう定められているので、派遣元から派遣料金の見直しを求められた場合は、適宜対応する必要があります。適切な対応をしないと、行政指導の対象になる可能性があるため注意しましょう。
まとめ
労使協定方式の概要や派遣先均等・均衡方式との違い、メリット・デメリット、賃金の算出方法、派遣元と派遣先が対応することなどを解説しました。
労使協定方式には、「派遣先が変わっても派遣労働者の賃金を一定以上の水準に保てる」などのメリットがあります。ただし、労使協定を結ぶにあたり、派遣元には高い労務管理能力が求められます。
派遣労働者の待遇を決める方法は、労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の2種類です。近年の主流は労使協定方式ですが、どちらが適しているかは派遣元により異なります。両者のメリット・デメリットを加味して、自社に適した方式を選びましょう。
なお、待遇の決定方法を選択したら、実際に派遣労働者を募集する必要があります。派遣労働者の募集を行なう際は、ぜひ『エン派遣』をご活用ください。
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